思考のよせなべ

清水喜文ブログ

それぞれの楽園

 

 

 ある草原にウサギが住んでいた。

 穏やかな日差しが降り注ぐ、とても居心地の良いところである。

    だが、ウサギは不満だった。

 ――もっといい暮らしがしたい。

 そう強く願っていた。

 

 ある日ウサギが昼寝をしていると、話し声が聞こえた。

 目を開けると、数頭の動物たちが歩いているのが見える。

 見た事もない動物たちだった。

 興味をそそられたウサギは、駆け寄って話しかける。

 

 ウサギが自己紹介すると、彼らは「サル、カメ、ラクダ、カバ、ペンギン」と、それぞれが名乗った。

 彼らは、街の動物園から来たのだという。

「そこが閉園になったのでね、旅をしているのさ」

「どこに行くの?」とウサギは訊く。

「楽園」とサルが微笑んだ。

「楽園?」

「ああ、理想の地。この世の天国のような場所」

 聞いた瞬間に、ウサギは口を開いていた。

「僕も連れて行って」と。

 

 

 数日後、一行は樹々が生い茂る森にたどり着いた。

 ここだ、とサルが興奮する。

「ここが、僕の楽園だ」

 なるほど、ここが楽園か、とウサギは周りを見渡す。

 樹には、熟れた果物が豊富に実っているのが見えた。

 花の良い香りもする。

 悪くない、と呟いた。

 だがウサギは、他の動物たちの様子を見て、首を傾げる。

「どうしたの?」

「ここは私の楽園ではない」とカメが答えた。

「俺も違うな」

 カバが言うと、他の者も次々に同意する。

「だから、僕らはまだ旅を続けるよ」

 ラクダはそう言って、サルと抱き合う。

「幸運を祈っている」

    そう言って別れた。

 ウサギは迷ったが、彼らについていくことにした。

 

 それから、数か月後。

 一行の目の前には、大きな川があった。

「ここが、俺の楽園だよ」

 そう言って、カバが喜ぶ。

 ここが楽園?

 泳げないウサギは驚きを隠せない。

 だからラクダが、「僕には住めないな」と呟いた時、ウサギは内心でホッとしていた。

「私たちは泳げるけれど、でもここではないよね」

 カメとペンギンが、顔を見合わせている。

「幸せに暮らしなよ」

 カバの幸運を祈って、彼らは旅立った。

 

 さらに、数か月後。

「これぞ、楽園である」

 そう口に出したのは、ラクダだった。

 当然、――砂漠である。

 

 また、数か月が過ぎる。

 次に喜んだのは、カメ。

 目の前には、大海があった。

 

 ウサギは海の上を進んでいた。

 楽園を求めるペンギンと共に。

 ウサギはカメの背中に乗っている。

 気の良いカメは、別の大陸までウサギを運ぶことにしたのだ。

 

 氷の大陸に着いた。

 ペンギンは喜ぶが、ウサギには耐えられない寒さだった。

「君はどうする?」

 ペンギンの問いかけに、ウサギ即答する。

「まだ、探すよ」

 

 それから数年。

 ウサギは旅を続けたが、理想の地はなかなか見つからない。

「あきらめよう…」

 そう思いかけた時、それが目に入った。

「……楽園だ」

 穏やかな日差しが降り注ぐ、緑の草原。

 優しく頬を撫でるそよ風。

「やっと着いた」

 気が抜けたのか、ウサギはそこで気を失った。

 

 しばらく後。

 ウサギは目を覚ました。

 慌てて周りを見渡したウサギは、ホッと胸をなでおろす。

「……夢ではなかった」

 楽園に着いたのだ、と。

 

「お、起きたかい」

 後ろから声をかけられた。

 ウサギが振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。

「……君は」

 記憶を辿るウサギに、そのウサギは話しかける。

「君、数年の間、どこに行っていたんだ?」

「えっ?」

   

「まあ、でも無事でよかったよ」

 お帰りなさい、とそのウサギは微笑んだ。

 

 文 清水喜文