思考のよせなべ

清水喜文ブログ

「どうであったか」よりも「どうあるか」が大事

 

 

アルコール中毒から、精神的指導者になった男】 

 

アメリカ先住民、ラコタ族。

ドウェイン・ホロ―・ホーン・ベアという名の男は、誇り高きその部族の出であった。

 

彼は高校を卒業すると、部族が暮らす土地を離れ、職に就く。

そこで酒を覚えた。

部族法では禁止されていたその味にすっかり魅了された彼は、溺れ、堕落していく。

 

          *

 

アルコールは、 コロンブス以降に白人が持ち込んだものである。

だから先住民が、アルコールと接するようになってからまだ日は浅い。

故に、アルコール分解要素を体内に蓄積できていなかかったのが、いけなかった。

中毒になる者が続出したのだ。

 

ドウェインも同様だった。

仕事も妻も失うほどに、酒浸りとなる。

すべてを失い、失意のどん底にあった彼は、部族のもとに帰った。

 

そこで彼は、己と戦った。

そして苦しみの末に、断酒に成功する。

己に打ち勝った彼は、さらなる高みを目指すようになっていく。

 

          *

 

ラコタの者は、パイプを大事にする。

大自然のすべては「大いなる神秘」(宇宙の真理)のもとにあると考える彼らは、それとつながるために、パイプで煙草を吹かすのだ。

だが、パイプは買うものではない。

「持つべき時が来たら、誰かから自然にもらえる物である」

そう考えられているのだ。

 

この時、ドウェインにはパイプがなかった。

 

          * 

 

ドウェインの曽祖父は、偉大な男であった。

19世紀の終わりに行われた合衆国との条約交渉に、部族の代表として選ばれるほどである。

だが曽祖父は、滞在先のワシントンで死去する。

これについては陰謀説も多いが、それはまた別の機会に。

 

遺体は、部族のもとへ戻ってきた。

だが、曽祖父が持っていたはずのパイプが、失われていたのである。

 

          * 

 

時は過ぎ、再び、ドウェイン。

ある日、彼は部族会議から、呼び出される。

行ってみると、白人が彼(ホロー・ホン・ベアーの子孫)を探しているという。

渡したいものがあるのだ、と。

パイプだった。

紛れもなく、偉大な曽祖父のものである。

 

パイプを得たドウェインは、4年にも渡る儀式を経て、「大いなる神秘」とつながることが出来た。

その後、彼はラコタの精神的指導者となったのである。

 

          *

 

ラコタの社会には、階層意識はない。

人が人に、媚びへつわらないのである。

学歴や社会的地位のある者、裕福な者…。

誰であろうと関係ない。

「何であるか」よりも「どうあるか」が大事なのである。

 

同様に、「過去にどうであったか」は重要ではない。

「今どうであるか」がすべてである。

 

 

文 清水喜文

 参考文献「『アメリカ先住民の精神世界』阿部珠理著 NHK出版」