思考のよせなべ

清水喜文ブログ

寓話

忘れてはいけない物語

忘れてはいけない物語があります。 自分で創ったのではないのが悔しいですが、紹介します。 ――その時、神は現れた。 ニューヨーク、ロンドン、東京といった大都市から、シベリアの森林地帯やサハラ砂漠に至るまで、地球上のすべての場所の上空に、その姿が映…

何者にも、ならなくていい。

ねえ、誰か教えてくれないか。 僕は、誰なんだ? 幼い頃、母は僕にいろんな希望を言った。 「あなたもライオンみたいに強いといいね」 「チーターみたいに足が速いといいな」 「ウサギみたいに優しいと、お母さんは嬉しいな」 「ゾウみたいに力があると、頼…

子は真似る

ここはサバンナ。 ライオンの父親が、メスたちの狩りの様子を眺めながら息子に言う。 「上に立つ者が率先して働かなければ、誰もついては来ないのだ」 ここはアラスカ。 クマの母親が、鮭の腹だけを食べながら子供に説教をする。 「食べ物を粗末にしてはいけ…

狐の死に場所

――雪が降っている。 狐は見えなくなりつつある目で、空を見上げていた。 人が作った道を横切ろうとしたのがまずかった。 突然現れた人を乗せる鉄の化物に突進され、跳ね飛ばされたのだ。 私は死ぬのだろうか。 狐の脳裏に、子供たちの姿が浮かんだ。 私がい…

蝉が鳴く理由

――そろそろ旅立つ時だ。 どこからか声が聞こえた。 「誰?」 ――私は、君の本能だ。 「本能?」 ――ああ、そうだ。早く旅立ちなさい。 「どこに行くというの? ここにいれば安全なのに」 僕は本能に反抗する。 「ここには友達もたくさんいるのに」 去年、仲の…

それぞれの楽園

ある草原にウサギが住んでいた。 穏やかな日差しが降り注ぐ、とても居心地の良いところである。 だが、ウサギは不満だった。 ――もっといい暮らしがしたい。 そう強く願っていた。 ある日ウサギが昼寝をしていると、話し声が聞こえた。 目を開けると、数頭の…

「漁師と金持ち」のその後

【第一幕 漁師と金持ち】 ある島の美しい浜辺。 ひとりの漁師が、海を眺めていた。 「失礼だが…」 ふいに声がかけられる。 振り返ると、身なりの良い男が立っていた。 「何か用ですか?」 「いや、用というわけではないのだが…」 ちょっと気になってね、と男…

できないことだらけの王者

気がつくと、僕は大地に横たわっていた。 ここはどこだろう、と顔を上げ周りを見渡す。 だが、見覚えがない。 ずきっと頭が痛んだ。 どこかで打ったのだろうか? 「お前は誰だ?」 突然、後ろから声がかけられた。 振り向くと、毛むくじゃらの動物と目が合う…

もしも、「お金」という言葉の使用を禁じたら

20☓☓年☓月☓日。 世界中の国で、同時にある実験が行われることとなった。 それは、お金に関する言葉の使用を、一切禁じるというものだ。 お金を使用しての買い物は出来るが、通貨の単位を口に出してはいけないし、紙に書いてもいけない。 紙幣や硬貨を見せ…

もうひとつの輪廻転生の話

彼女は、澄んだ水の中で生まれた。 冷たい世界。 そこが、その頃の彼女の全てだった。 彼女は泳げるようになると、砂利の中から飛び出し、川を下り始める。 なぜ川を下るのかは、わからない。 ただ、本能がそう命じている。 やがて、広い場所に出る。 これま…