思考のよせなべ

清水喜文ブログ

忘れてはいけない物語

 

  忘れてはいけない物語があります。

 自分で創ったのではないのが悔しいですが、紹介します。 

 

 ――その時、神は現れた。

 

 ニューヨーク、ロンドン、東京といった大都市から、シベリアの森林地帯やサハラ砂漠に至るまで、地球上のすべての場所の上空に、その姿が映し出される

 

「地上に住む者達よ」

 

 神は優しく語りかけた。

 

 人々は歓喜し、涙を流してその姿を仰ぎ見る。

 

 戦闘中の兵士すらも武器を捨てた。

 

「わたしはお前たちの願いをひとつだけ叶えてあげようと思う」

 

 そう神が言葉を続けると、世界中で歓声が上がる。

 

「ただし、一番多くの者が希望する願いをひとつだけだ」

 

 神はそこで一度言葉を止め、皆が落ち着くのを待った。

 

「……ひと月後にまた来る。それまでに考えるがよい」

 

 神はそう告げると、現れた時と同じように唐突に消えた。

 

 

「金持ちになりたい」

 

プロ野球の選手になりたい」

 

「歌手になりたい」

 

 人々は己の欲求を頭に浮かべた。

 

「だが、一番多い願いだと神様は仰った」

 

 誰かが言うと、別の者がそれに答える。

 

「ならば、個人的な願いはまず無理であろう」

 

「では、世界平和とか?」

 

「何にせよ、世界中の人々が思いをひとつにせねばなるまい」

 

 こうして各国の首脳陣は臨時に会議を開くことにした。

 

 会議は困難を極めたが、「世界中の人々が幸せに暮らせるように」という願いでまとまった。

 

 さっそく世界へ向けてその旨を伝えた。

 

「その時が来たら、全員でそう願うように」と。

 

 

 そして、当日。

 

 約束通り、神は再び現れた。

 

「では聴こう。お前たちの願いを」

 

 すべての人々は心をひとつにして願う。

 

「世界中の人々が幸せに暮らせるように」

 

 神はしばらくの間、瞳を閉じていたが、やがて目を開き、頷いた。

 

「…皆の願いはわかった」

 

 神は微笑む。

 

「ではその願いを聞き入れよう」

 

 人々は歓声を上げて喜んだ。

 

 

 ――と、次の瞬間。

 

 すべての人類が消えた。

 

 人類は忘れていたのだ。

 

 地上に人類以外の生物が住んでいることを。

 

 彼らの中で一番多かった願い……。

 

 それは、「地球から人類がいなくなりますように」であったのだ。

 

 

 

 10年以上前にテレビで見たアニメを思い出して、書きました。

 

 

 

さて、神とは誰のために存在するのでしょう?

そして人類の存在意義とは?

地球にとっての人類の役割とは?

自分たちが思っているほど、人類は特別ではないのかもしれません。

 

 

清水喜文、短編集『よせなべ』発売‼

 

このたび、私、清水喜文は短編集を発売しました。

 

よせなべ: 清水喜文短編集

よせなべ: 清水喜文短編集

 

 

娘の結婚を止めようとする幽霊の話。『幽霊の生きがい

前世で犯した罪を、現世で償う男の話。『罪と罰

絶対に勝てる条件での賭けだった。それなのになぜ男は負けたのか。『年劫の兎

無人島ならぬ、無人惑星に漂着した豪華宇宙客船の話。『新しい文明

神に憧れる男がいた。彼はある晩、神の立場を体験する。『神を体験した男

自分が誰なのか、わからなくなったある動物の話。『できないことだらけの王者

ある童話を主人公とは別の目線で、しかも現代風アレンジした話。『英雄の代償』 

以上、7作が収録されています。

 

例えば、眠りにつく前のひと時に。
あるいは、誰かを待っている間に。
もしくは、フライト中の機内で。
そういった短い時間の暇つぶしに、大人の寓話はいかがでしょう。

ユーモアと皮肉をベースに、感動をちょっぴり加えて、ひとつのお鍋(作品)に仕上げました。
清水喜文がお届けする「よせなべ」。どうぞお召し上がりくださいませ。

 

追記、感想をAmazonに残して貰えると、ありがたいです。